先日、茨城県守谷市にあるとねっこ保育園を6年ぶりに訪ねてきました。

今年、84歳になっていらした小松原先生(子どもたちからは「こまちゃん」という愛称で呼ばれている)。

川近くの森の中にある園舎、大きなホールの広い木の床は、絵の具でどことなくいろんな色になりつつ、今もピカピカに磨かれていました。

とねっこ保育園のこと

この保育園は斉藤公子さんが実践指導されていた、「さくらさくらんぼ保育」を土台とし、たくさんの自然遊びと芸術表現を通じて、身体と心がしっかりと育つ自由保育を行なっている園です。

保育園といっても、卒園後の子どもたちも日中もしくは放課後に通ってきて、0歳から12歳までの子どもたちが伸びやかに育つことを支援していらっしゃいます。中高生になってからも、小松原先生のLINEには「こまちゃんに伝えたいことが・・・」という『とねっこ育ちの感謝レポート』が届いたり、保護者の方からの相談が届いたり、中には、大学生になってから夏休みには保育の支援に寝泊まりしながら来るようなお子さんたちもいらしたとか。

私たちがこの園に出会ったのは、画家で児童美術の研究者である高森俊さんのご紹介によるもの。高森さんはこの園をはじめ、各地で長年にわたり絵を描くワークショップ「絵を描く会」をされてきました。

自由に描く「絵を描く会」〜子どもの絵はこころ〜

絵を描く会では、とろとろに溶いた水彩絵具と画用紙で子どもが(おとなも可能)自由に描き、描き上がったら次の紙、また次の紙と本人がもう十分となるまで描き続けるもの。おとなは近くにいても口出しすることなく、絵の具を溶いたり紙を交換するのを手伝ったり、描き上がった紙を書いた順番に並べその番号を書き込んだり・・その子が描くのをただただサポート役に徹します。

何枚も描く子もいれば数枚、もしくは一枚、全く描かない子もいて、それもOK。

描き上がった紙にはその子の心が見事に現れます。パッとみて分かるような絵もあれば、すぐにはわからない絵もあるのですが、高森先生の面談を受けると我が子がどんな気持ちを抱えているのか、何を伝えようとしているのかが見事に伝わってくるのです。

先生が絵から読み取った内容を聞きながら自分の行動、我が子の行動を振り返ってみると、だんだん見えてくるものがあります。生活の中でのこと、関係性の中でのこと・・そしてそれを元に子どもとの時間や関係性を変化させていくと、次の回では全く絵が変わっているということがよくあります。

高森さんとの出会い 〜これは魔法?〜

私たちは高森さんに出会い、まだ子どもを授かる前に実家の幼稚園でワークショップを開催させていただいたことがあります。今から17年ほど前のことだったと思います。

その会の中でも子どもの振る舞いと絵の変化は、本当に著しいものがあり心底びっくりしました。

会場に着いた時には縮こまっておとなの顔をしきりにみていた子は、最初の絵はとても慎重に数十分かけて、黒や茶色で隅から塗りつぶしていきましたが、枚数を重ねていくうちにとても軽やかに明るい色で、しっかりとした筆どりで描くようになったのです。

絵を書き上げた彼はパッと立ち上がると、他の子どもたちの輪に入り楽しそうに遊び始めました。会場に入ってきた時とはまるで別人でした。私はこの光景にまるで魔法のようだと思いました。

協力助っ人「とねっこ保育園」〜小松原園長の存在〜

数年が経ち、子どもを授かってからは、都内で一度ワークショップを開催させていただくことになりました。そこにサポートに来てくださったのが、とねっこ保育園の小松原園長と東京にある大きな木保育園の藤井園長先生でした。

実家の幼稚園とは異なる空間で、保育士の先生方もいません。0歳の娘をおんぶした私たち夫婦とボランティアの方が数名。道具も初めて揃える中で、お二人の園長と先生方の存在がなかったら成り立たなかった会でした。

どこの誰かも知らない中で、絵を描く機会を子どもたちに届けたいという思いで、駆けつけてくださった二人の園長と先生方には今でも本当に感謝しています。

その後、自分たちで主催することはなかったのですが、よかったら遊びにおいでと続けて通わせていただいたのが、とねっこ保育園の絵を描く会でした。

16年間子育てを支えてもらって 〜大丈夫大丈夫

娘が小学校に入って間もなく学校には行かない宣言をした時も、絵を描く会で描いた絵には見事に彼女の気持ちが表れていました。

それまで伸びやかに書いていた絵が本当に縮こまっていて、「あの伸びやかに描いていたこの子の絵がこんなに縮こまっているなんて・・よっぽど怖い思いをしたんだね、行きたくなくなるのは当然よ。彼女の判断は賢明ね」と。

親としてもその方がいいかなと思いつつ、行かない選択に背中を押してくださったのはこの絵を描く会でのことでした。

居住地の東京都大田区と、保育園のある茨城県守谷市。残念ながら毎日通うことは叶わなかったけれど、年に3回通わせていただいた大好きな保育園。下の子が生まれてもずっと親子ともに育てていただいたのは、娘の幼稚園や息子の保育園、フリースペースはもちろん、いつ伺っても「大丈夫大丈夫」とずっと温かく受け入れてくれ、時に悩みをきいて受け止めてくださるこの園の存在がとても大きなものになっています。

<娘の絵の変化(入学直前⇨入学直後⇨1年後フリースペースで過ごすようになって)>

6歳11ヶ月・入学直前に描いた絵。モチーフが大きくしっかりとした筆どり。

「7歳1ヶ月(小学1年8月)に描いたもの(真ん中の1行):線が全体的に細めで小さく描かれている。星のような*は学校でつけられた×印だろうと高森先生。

学校に行かなくなったきっかけの一つは、クラスの班ごとにつけられる×印。表になっていて、お弁当食べるのが遅いとか、できていないことがあると班に×印がつくという方式。

私のせいで今日も×印がついちゃったと悲しそうに帰ってきた日がとても印象的だった。

1年後の絵。8歳1ヶ月

学校に行かなくなって、フリースペースえん(川崎市子ども夢パーク内)に通うようになってから描いた絵。

どの絵も堂々とした絵で描かれていて、モチーフも明るく楽しそうでエネルギッシュ。本来の彼女らしさが戻ってきた。実験の気持ちがいっぱい盛り込まれているねと高森先生。

現在のとねっこ保育園 〜年齢の枠組みを超えて〜

私たちが通っていた時期にはすでに、学校に行かない子たちも一緒に過ごせる学童を併設した園だったのですが、現在は30名ほどの小学生が日中もしくは放課後ここに通い、月に2回は絵を描く時間があるそう。

今作成中の2025カレンダーで選ばれた絵を見ながら、その絵にはその子の心が映し出され、モヤモヤやイライラ悲しみや寂しさ、その子の心境変化が見事に現れている様子をお話ししてくださいました。

時には親からヘルプの声がかかったり、耳にするその子たちの学校での行動や様子に、必要に応じて園長自らその子との対話時間を設けます。その言葉は「そのまま(時には言葉を選びながら)」親に届けられるそうですが、それをきいた親も気づきを得て少しずつ関係に変化が生まれます。

このお話をきいて、子どもたちが12歳までの児童期をここに遊びにいきながら過ごせるのは本当に貴重な機会だなと思いました。我が子のことのようにお話しされる小松原園長。ここに通うおとなも子どもも、ここに縁がある人すべて我が子のように大切にしてくださるとねっこ保育園。

年長活動:動物園に行った後に制作されたもの。数年前の卒園児の作品も大切に飾られていました。

おむつはなし、パンツで過ごす保育園。どろんこもいっぱいでお洗濯物も当然たくさんになります。親も一緒に心を動かし育ったり、園の運営を支えたり、毎日読み聞かせをしたり、、おまかせ保育とはまるで違います。手間暇をかけて一緒に育てていく保育は、今の時代のスピードとは相容れない部分もあるかもしれません。

でも、それを超えてここで培われる身体と心の育ちは、今の時代だからこそ、とても大切だと改めて感じています。登園可能でこのブログにピンときた方。ぜひこの園での育ちをお勧めします。年3回は公開にて絵を描く会も開催されていらっしゃいます。簡単ではないかもしれなけれど、思春期〜高校生くらいになった時、ああここで育ってよかったと実感していただけると思います。

 *とねっこ保育園*
  【住所】〒302-0038 茨城県取手市下高井1087-24
  【電話】0297-78-2203 ※FAXも同じ番号です
   ホームページ:http://tonekko.com

ラーフェスで絵を描く会を開催します

最後に、今回とねっこを訪れたのは、ある活動の報告に。

それは、今年、軽井沢のライジングフィールドで開催される「ラーフェス(軽井沢ラーニングフェスティバル2024)」でのこと。今回、カムワッカは、マザーアース・エデュケーションとともにキッズキャンプを担当することになり、絵を描く会の経験と松木さんのBE WITHできくを融合して、自由に描くワークショップを開催します。

小松原先生に私たちがこの数年で取り組んできたこと、野外プログラムで絵を描くことを伝えると、とても喜んでくださり、自分たちの経験を余すことなくシェアしてくださいました。

そして、「絵の具を溶く容器持ってた?筆はある?これ持っていっていいよ」と道具まで譲り発注先も教えてくださって、背中を押してくださいました。

16年ぶりの絵を描く場。しかも屋外とのことでどんな場になるでしょう・・ワクワクドキドキしています。私は子どもたちの学園祭で会場には伺えないのですが、スタッフ一同ご一緒できることを楽しみにしています。

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