
兵庫県丹波篠山市の山あいに、小さな鈴が一つひとつ生まれている古民家がある。 そこは、銀の鈴を専門に制作する作家 イソガワクミコさんのものづくりの空間。カムワッカの「吉祥すず」を手がけてくださっている彼女の工房は、丹波の深い季節の中にひっそりと佇んでいる。
この連載では、古くからの友人でもあるカムワッカ宇井新との会話を通して、イソガワクミコさんの語りを元に、「鈴をつくること」「音と暮らすこと」について、少しずつ紐解いていきます。
第3回「銀と音の探究」— 音、素材、かたち
「0.02グラムの誤差で音が変わるの。玉のサイズと切り込みの深さで、全然違う音になる」
何気なく手に取った小さな鈴。その“音”には、緻密なバランスと、素材との対話が詰まっている。
音をつくるのは「重さ」と「切れ目」
「音の違いって、すごく繊細なの。中に入ってる玉のサイズ、それと外側の切り込みの深さ。ほんの少しのズレで音が変わっちゃう」
銀の鈴の音は、金属という素材の性質に大きく左右される。厚み、硬さ、響き。そこに、玉の重さと位置、外周の形状が加わると、同じ型でつくっても、まったく違う響きになるのだという。
「だから、0.02グラムの誤差でも、鳴らしてみると違うの。びっくりするくらい」

銀という素材の“やわらかさ”
「銀って、実はやわらかいんだよね。あんまり聞くことはないかもしれないけど、すごく優しい音がする。私はその音がすごく好きで」
硬さがある金よりも、銀の方がやわらかく、そして長く響く。音が高く、遠くまで届くというよりは、しっとりと空間になじむように響く感覚。
「風が澄んでるときの方が、やっぱり音がいい」
そんな自然との共鳴まで意識している彼女の鈴は、まさに“響き”とともにある存在だ。
音で選ぶ? 難しさと魅力
「オンラインだと音が伝わらないのが難しい。でも、実際に並べると、迷うんだよ。高いのも低いのも、どれも良くて」
鈴を販売するにあたって、音の違いは一つの大きな個性になる。
だが、それを伝えるのは簡単ではない。だからこそ、購入者が偶然に出会った音を“自分の音”として受け取ってくれるのが、うれしいという。
「2個買って違う音がしたら、びっくりする人もいるかもね。でも、全部違っていいと思ってる」
「火を当てても音が変わる。使ってるうちにちょっと高くなることもあるし。そういう変化も面白いの」
生きているように響き、環境とともに変化する鈴。それはもはや単なる道具ではなく、音の“生きもの”なのかもしれない。

つづく第4回では:
「リサイクルの美学」— 材料と生命の循環
鈴はどうやって生まれるのか? 廃材から銀を取り出し、再生し、また音を宿すまで。循環する素材と、見えない記憶の再構築について。

魔除けの力があるとされ、古くから場を清め人々を守るためにも使われてきた鈴の音色。しあわせと、いのちのよろこびを願う吉祥(きっしょう)モチーフの銀の鈴を、鈴作家のイソガワクミコさんに作っていただきました。題して「吉祥すず」。地金から成形まで、ひとつひとつ丁寧に仕上げられています。
うまれたての赤ちゃんには、紐を通しお母さんの首から下げてオルゴールボールのように。自分で鞄を背負えるようになったら鞄につけて。大きくなったら鍵や首元に。子ども時代からおとなまで、そして何世代までも末永く使える銀の鈴。気持ちを込めた贈り物として、自分自身へのプレゼントとして、世界に一つの音色をお届けします。