
兵庫県丹波篠山市の山あいに、小さな鈴が一つひとつ生まれている古民家がある。 そこは、銀の鈴を専門に制作する作家 イソガワクミコさんのものづくりの空間。カムワッカの「吉祥すず」を手がけてくださっている彼女の工房は、丹波の深い季節の中にひっそりと佇んでいる。
この連載では、古くからの友人でもあるカムワッカ宇井新との会話を通して、イソガワクミコさんの語りを元に、「鈴をつくること」「音と暮らすこと」について、少しずつ紐解いていきます。
第4回「リサイクルの美学」— 材料と生命の循環
「いらなくなった金や銀を預かって、溶かして、鈴にして返す。そんな“お焚き上げ”みたいなこと、やりたいってずっと思ってる」
イソガワクミコさんの鈴づくりには、素材の循環と、記憶の再構成が静かに息づいている。
捨てられない金属、記憶がこもった素材
「友人に、別れた彼にもらったアクセサリーを“いらないからあげる”って言われたことがあって。“売ってみたら?”と返事すると、“売るのもイヤ”って。“じゃあ鈴にする?”って言ったら、“それもイヤ”。とにかく“いらない”って」
そんな“いらないけど、捨てられない”金属たち。
誰かの記憶がこもった素材たちを、イソガワさんはそっと引き取り、「別のかたち」に変えようとしている。
「いい人じゃないとダメだと思ってる。気持ちがこもってるものを扱うんだから」

銀はなくならない。変化し、また戻る
「銀って、なくならないんだよね。鉄みたいに錆びて朽ちるわけじゃない。溶かせばまた板になる。形は変わっても、消えない」
彼女の工房では、削った銀の破片も集めておいて、必要に応じて再生させる。それは環境への配慮というよりも、素材に対する「信頼」に近い。
「破片を集めて、材料屋さんに持っていけば、また板にしてくれる。『分析精錬』っていうんだけどね」
銀は回り、また音を鳴らす。イソガワさんの手の中で、物質の記憶が音に変わってゆく。
お守りとしての循環
「ほんとはね、いらなくなった金や銀を預かって、溶かして、鈴にして返すってことを、ちゃんとやりたいと思ってる。お焚き上げみたいに。形見とか、ずっとしまってる婚約指輪とか」
それは“処理”ではなく、“祈り”としてのリサイクル。
記憶を浄化し、響きに変えて手放す。それを“鈴”というかたちで行えることに、彼女はやりがいを感じている。
「やっぱりね、いい音で終わってほしいから」

つづく第5回では:
「これからの鈴」— 鈴らしくあるために
“主張しない音”としての鈴をつくり続けること。イソガワクミコさんが大切にしている「距離感」と「すずらしさ」に迫ります。

魔除けの力があるとされ、古くから場を清め人々を守るためにも使われてきた鈴の音色。しあわせと、いのちのよろこびを願う吉祥(きっしょう)モチーフの銀の鈴を、鈴作家のイソガワクミコさんに作っていただきました。題して「吉祥すず」。地金から成形まで、ひとつひとつ丁寧に仕上げられています。
うまれたての赤ちゃんには、紐を通しお母さんの首から下げてオルゴールボールのように。自分で鞄を背負えるようになったら鞄につけて。大きくなったら鍵や首元に。子ども時代からおとなまで、そして何世代までも末永く使える銀の鈴。気持ちを込めた贈り物として、自分自身へのプレゼントとして、世界に一つの音色をお届けします。