
チーズは「生命の力」を受け継ぐ食べ物
地球の地軸は傾いているでしょう? 約23.4度なんだけど、すると、北緯43度のあたりは、太陽の高さが、最も幅広く変化する。つまり、最低温度と最高温度の差が一番あるんです。ということは、発酵が非常に豊かにできるんですよ。
この北緯43度には、マルセイユ、ブルガリア、ウィスコンシン、札幌、モンゴルの南部などがある。どこも、実に良いチーズが育つ場所でね、発酵ラインと呼ばれています。新得もまさにそのライン上だったんだよね。

仏陀がね、断食修行の後に、最初に食べたのは、乳粥なんだよね。スジャータという人に乳粥を食べさせてもらったという伝承があってね。
なぜ乳粥なんだろうか?
赤ん坊は、生まれてから一番最初に飲むのが乳だよね。赤ん坊はお母さんの乳から何をもらっていると思う?もちろん生きるエネルギーをもらうよね。それと同時に、免疫力をもらっている。でも、赤ん坊はお母さんの母乳から卒業するときがくるよね。
それは、乳の中に入っている糖分である乳糖、それが消化できなくなるんですよ。消化できなくなるから、お母さんの乳を飲んでもお腹コロゴロしてお腹空いちゃうんだよね。それで固い野菜とかね、お肉とか、食べなきゃいけなくなるわけさ。お腹空くもんね。だからそこで離乳をして、食べるようになるんですよ。

いつまでもお母さんについていられたらさ、楽だよね。抱かれてて、安心と同時に、お腹いっぱいになったら楽。でも、そうしたらおとなとしての自立は難しいよね。それでお母さんから自立ができたものが生き残れた。ということであれば、乳をくれる存在のお母さんから、離れて生活できなきゃいけないんだよね。その時に消化器官が変わる。
それで、乳から乳糖をなくして、必要な栄養素そして免疫力を届けるのがチーズなんです。発酵で乳糖が変化するので、チーズの中に乳糖は残らない。
今、至る所で「免疫力、免疫力」と騒がれているように、現代は、あえて免疫力を高める必要がある時代になっているよね。
だから、乳が、乳糖のなくなった「チーズ」という形に変化することで、乳から免疫力を受け取ることができるようになることには、健康維持に重要な意味がある。チーズって、そういう食べ物なんですね。
美味しいチーズとは?

チーズは乳を発酵させて作るわけでしょ。
最初は乳酸発酵をするんです。その時にpHは酸性にどんどん進んでいくよね。乳酸発酵している間は、ずっと酸性になっていって、pH6を割って5台、5.6とか5.4になるともう安全なんです。
そこでは病原性の微生物は生きていられない。だから酸度を強める。そうすると、熱を加えなくても、安全な食べ物になる。
でもねぇ、それはちょっと酸っぱいんです。それで今度は、熟成菌というのがいて、熟成をさせることによって、酸性に傾いちゃったものを、中性に戻してくる。
そうやって順調にいくと、だんだんチーズの酸味が弱まっていって、熟成が進んでいくことによって、食べた時、消化しやすくなるんですよ。大きい分子のタンパク質を、少しずつ少しずつ熟成という名のもとに小さくして消化しやすくするわけ。
だから熟成チーズの方が消化しやすいんですね。日本人はその美味しさを知っているんです。昔から、漬物を食べてきたからね。旨味っていう言葉、日本語しかないですよ。
美味しいチーズ。それは、食べたときに、生きるエネルギーをいっぱいもらえるものが美味しいって感じるようになっているんです。
惑星の動きと発酵

太陽と月と地球。この三つがどう動いてるかって、考えたことある? 月の位置や、太陽との関係で、物事の起こる順序とかね、起こり方が変わっちゃうんですよ。
少し言及しておくと、地球には太陽風という磁気の風が届いているよね。その風の流れは、月の位置によって変わる。そうすると、磁気の密度が変化する。磁気は電子の働きと関係するよね。それを知って、ちゃんと一番いいタイミングで行うことで、いいものができるわけ。年中同じようにやってたら、最高のものはできないんです。
生命を育てるリズムを思い出す
今の社会は、便利さと引き換えに、生きる力をどんどん失っている。携帯がなければ物も買えない、パソコンがなければ仕事もできない。でも、共働学舎には、土があって、草が生えていて、牛がいる。だから、牛乳を絞って、チーズを作ることができる。野菜も自分たちで作って食べられる。
特に都会ではお金がなければ生きにくい、そんな社会の中で、お金がなくても生きられるという選択肢を持っている。それがね、共働学舎の生き方なんです。それに加えて、お金があると、漫画も読めるし、お煎餅も食べられるから、やっぱりいいよね。

次回は、「文明とチーズ、鉄と免疫」チーズから始まるスケールの大きな話に広がっていきます。
宮嶋 望 プロフィール

農事組合法人「共働学舎新得農場」代表
NPO「共働学舎」副理事長
1951年、前橋生まれ、東京育ち。自由学園最高学部卒業。1974年、米国ウィスコンシン州にて酪農実習(2年間)。1978年、米国ウイスコンシン大学卒業(畜産学部酪農学科、B.S.)。
1978年、新得共働学舎設立。1998年、オールジャパンチーズコンテスト最高賞(ラクレット)。2004年、第3回山のチーズオリンピック金賞・グランプリ(さくら)。2012年、農林水産大臣賞「マイスター」受賞。
十勝ナチュラルチーズ振興会会長(1994~2005年)。十勝ナチュラルチーズ協議会副会長。チーズ・プロフェッショナル協会副理事長。ジャパン・ブラウンスイス・クラブ会長。北海道ブラウンスイス協議会会長。新月の木国際協会副理事長。
【著作】
共働学舎 新得農場

北海道上川郡新得町字新得9-1
TEL:0156-69-5600(日曜を除く10:00~17:00)












