このインタビューは、Taguchiスピーカーの生みの親である田口和典さんが天に召される3年ほど前の2018年5月2日に行いました。ちょうど、その後のREXシリーズとなるモデルの打ち合わせを重ねている時期のことです。その際にお話いただいた田口さんがスピーカーを創られるようになった経緯や、音や音楽に対する想いなど、改めて残しておきたく、記事として復刻することにしました。
私たちは、娘の幼稚園でご一緒していた方のご縁で、河野光男さんの幾何学立体作りワークショップに参加した際に、田口さんに出会い、工房に遊びに行く機会をいただくようになりました。大小様々なスピーカーが並ぶデモスペースで、田口さんのお気に入りの音源を聴かせてくださる時間がたまらなく心地よく、田口さんのつくられる酵素玄米をいただいたり、いろいろなお話を伺うのが大好きでした。
写真:(左)カムワッカ 宇井新・宇井のどか (右)故・田口和典氏 <2018年当時>
そのうち、Taguchiスピーカーが欲しいという友人をお繋ぎしたのをきっかけに、カムワッカのオンラインストアでお取り扱いをさせていただくことに。そして、私たちがイベントをするたびに、スピーカーを積んでPAをしにきてくださった田口さん。イベント後の食事と歓談タイムの間、子どもたち向けの映画鑑賞スペースでは、子どもたちにこそいい音で聴かせてあげようとライブで使用した機材を続けて使わせてくださいました。
現在、田口さんが予々「SOUND MUSEUMをつくりたい」と語っていた想いを受け継ぎ、インタビュー中に出てくる音響空間クリエイターの宮本宰さんと、SOUND MUSEUMへと続くbioSynchプロジェクトを進めております。新木場の工房と同じ建物内にある宮本さんの拠点Sympho Canvasに時々伺うのですが、今でも工房に行けば田口さんがふっと出てきて、大好きな音源を嬉しそうに聴かせてくださるような気がします。
スピーカーにまつわるお話しはもちろん、「戦争の反対は音楽だ」とおっしゃる田口さんの想いや平和への祈りなど、田口さんのものがたりを、2回にわたって掲載にてお届けいたします。
連載第1回 気配を感じる音、ハートにくる音楽
── 今、田口さんは新しいスピーカーを作ってると聞いたんですが?
山を登って頂上行くと、次の山が見えてきますから。もっと手軽に子どもたちにも音を聞かせたいなと思って、学校の教室の広さを想定したスピーカーなんだけどね、いざとなればダンスミュージックも全然平気だと思いますよ。
── あの平たい縦長のスピーカーですか?無垢な感じの。確かに黒板の横にあったらいいですね。
世の中、大量生産を狙ってバッと普及させて、一挙に店頭にずらずらっと並んでね。数年するとそれがまた新しい何かに変わって。おもちゃと一緒でしょ、それってね。でも、一生愛せるものを作っていかないとダメなんじゃないかな、ものづくりっていうのはね。道具として。いいものは残りますからね。スピーカーって永久磁石なんで、大丈夫ですよ。何十年でも。
── 世代を超えても全然平気なんですね。
そう。50年やそこら全然平気。昔は、ケミカルな部品でエッジとか、化学的に劣化しちゃうのがあったけど、最近はそんなことなくて。昔のスピーカーって、ネットを取ってみるとスピーカーの周りが無かったりするの。スポンジっていうのは、加水分解しちゃうからね。
── スカスカになって溶けちゃうっていうか、消えちゃってる部分ありますね。
そう。今はそういうことはあんまりないですね。すごいのはね、やっぱりね、だんだん平面スピーカーが増えてきてるけど、平らな面で音を出すっていうのが、音波が理想的な状態で届くんですよ。
紙のコーンを、紙だとふにゃふにゃですから、、この状態じゃコーン紙にならないんで、これをこういう風にコーン(円錐)の状態にすると丈夫になる。簡単に言っちゃうとね。音の状態は、空気に電気信号を変換して波面を起こしてるんだけど、この形だと時間差ができて正しくないんですね。
これは昔から定義として、こんなもん良くないっていうのは分かってるんだけど、それに値する素材や科学が進歩して、というか、接着剤とか、ハニカムとかが進歩して、すごく軽くて強いものができるようになったんだよね。
── 紙に代わる素材ができた。それで、コーン型からフラットにできるようになったんですね。
そうそう。耐久力も強くなったんだよね。焼けないとかね。最近の何キロワット何千ワットとか入っちゃうようなスピーカーも燃えなくなったから。NASAとか、あーいうところの技術で。おかげさまで。科学の進歩が原子力とかああいう方向ばっかり行かなくて良かったと思うんですけどね。
<スピーカーの内部を見ながら>
── 結構、重量感があるんですね。
そう。磁束密度っていうのを上げなきゃいけないから。今はマグネットも良くなってきてるからこういうのも出てきたんです。
── 基本的にはこの磁石でこっち側のものを揺らすような感じですか?電気信号をここで変えて、ここを振動させて鳴ると。電磁石ですか?
いや、永久磁石。地球と一緒です。北極と南極があってそこにオーロラができてね、、この世はすごいよね、あんなものが最初からあるっていうのがね。神様がお造りになるんだから。
── 磁石のところに電気信号が走るから、それが振動に変わって、、
そう、フレミングの左手の法則ね、力と電流と磁界と。モーターもそうだよね。
── 今、田口さんのところはほぼこれで作られているんですか?
ほとんどそうですね。骨董品がいいって言ってる人は、新しい技術よりも、こういう音よりも、昔のものを大事にして、進歩をあまり認めてくれない。
── 全体的な傾向としてあるんですね。
そう。だから、若い人たちの方が全然いいですよ。子どもたちとか。動物とか。犬とか猫も反応するから。猫を船で飼うっていうのが多いんですね。昔からそうなんだけど。ヨーロッパで保険制度が出来て、貨物船に猫を乗せないと保険がおりない。猫がねずみ獲るからね。
エンジン室あったかいからああいうところに猫がいるんだけど、エンジンの音がゴーーッて鳴ってる中で、ねずみがカサカサって歩く爪音を聞き分けるんだって。すごいよね。モタモタしてないで、ちゃんととっ捕まえてくるらしいですよ。
── すごい聴力ですね。敏感に周波数を聞き分けるんですかね。
そうそう。それはなかなか解明できなくて。医学とかと一緒ね。どういう波面がどういうことを起こすとか、心理的にどうなるとかね。いいスピーカーは明瞭度がいいっていうか、自然の音に近いんで、だから波の音とかも、そういうのも、アルファ波が出るようなことになってる、という、そういうのがね、1番大事かなと。
そういう「気配」を感じるようなもんじゃなきゃいけないなと。
── 温度があるっていうか。
だから、周波数特性でハイレゾのかわりに、敢えて、ツイーターつけて上まで伸びていればいいやとかね。測ってやるっていうのは、体温計とか血圧計で健康かどうか測るようなもんでね。
── 確かに。それだけでは測れないところを感じるアンテナっていうか。
本当に天に繋がってるかどうかっていうのは、判断するにはハートがないとね。そこを大事にしないといけないんじゃないかと。音楽なんてね。ましてね、技巧ばっかりじゃなくてね、ギター早弾きするよりも、 ポロンってやるだけでハートにくる時ってあるからね。
そういうこと言いながら、すぐ誤魔化しちゃうんですけどね。自分も(笑)。でもそういう感性の方が大事なんじゃないかな。子どもなんかにはそういうことを教えないと。前頭葉ばっかり発達しちゃうとね、比較だの戦争だのという方へ行っちゃうけど、ハートを大事にしないと、つまんないしね。
やっぱり、音楽をライブで観るっていうのが一番いいんだけどね。常にそうはいかないから、ライブに一番近い音を、手元に置けるといいよね。
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