『手しごと』ウエルビーイング 連載第十回 キッチン常備薬④〜梅干し、梅酢、梅肉エキス、梅醤番茶〜

こんにちは、『手しごと』ウエルビーイングのナビゲーター冨田貴史です。今回でキッチン常備薬コーナーの締めくくりです。

さて、唐突ですが、梅子黄。
これ、なんて読むと思いますか?
答えは「うめのみ きばむ」です。
これは、日本の季節のめぐりをあらわす「七十二候」の中の一つで、6月16日〜21日頃の気候を表しています。
我が家の庭でも、梅の実が少しずつ膨らんできました。

庭の梅の木。立春の頃につぼみがふくらみ出します。このつぼみが花になり、受粉がうまくいった花が実をつけて、その中の一部が実を膨らませて熟していきます。

この実が黄ばんできたら、そろそろ梅しごとの季節だな、という感覚がわいてきます。
僕はできれば実が木から落ちてから、すぐに拾ってボウルにためて、いい感じの量がたまってきたら梅干しにしたいと思っています。家の庭や畠など、身近に梅の木があれば、比較的簡単にそれができます。

そうでない場合は、黄ばんできたけど熟しきっていない状態で採取して、少し追熟してから漬けてもいいですね。どちらが美味しいかについては好みがあるし、できることをできる範囲でやることが大事とも思います。そしてとにかく、どんなやりかたでもいいからやってみる、がいいと思っています。

僕の場合はざっくり言えば、梅の実に塩をまぶしながら樽や瓶につめて、重しをして置いておきます。日にちが経つにつれて、梅の実の中の水分が染み出しきます。土用の頃になったら、実だけを取り出して昼間は外に、夜は室内に干します。これを3日繰り返します。

梅の実を取り出した後のすっぱしょっぱい汁は、さらし布でこして、瓶詰めして「〇〇年梅酢」とラベルを貼って、戸棚の奥にしまいます。僕は梅干しも梅酢も、3年くらいは寝かせたいと思っています。そのほうが「塩がなれる」と思っています。

「塩がなれる」とは、塩の中のとりわけナトリウム分の持つ「エッヂの立ったピリっという味」がまろやかになること。とはいえ、出来たての梅干しを食べないかというと、食べます。少し食べるし、保存もします。それを何年も繰り返していると、それなりの量の備蓄ができていきます。

「梅干しの作り方」が載っている本は、図書館や本屋さんに行ったらほぼ必ず、数冊はあります。その中で「自分にあっているな」と思うものをやってみたり、梅干しを作っている知り合いに尋ねたりするのがいいのではないでしょうか。

作ってみて、いい感じだったなと思ったらそのやり方を続けたらいいし、ちょっとやりかたを変えたいなと思ったら、やり方を変えたらいい。そうやって毎年やっていったら、そのうち「我が家のやりかた」みたいなものができてくる気がします。

※この記事の最後に僕のおすすめ本やサイトを紹介しています。参考にしてみてください。

中本農園との出会い

僕は和歌山のみなべで「実を完熟させてから漬ける」梅干しの作り方にこだわっている「中本農園」の中本誠さんの梅干しに2006年に出会ってからは、なるべく実自体を熟成させてから採取して、漬けるようにしています。

完熟梅を収穫するためのネットを畑一面にひろげています。 梅干しには、木で完熟して落ちてきた実を拾って漬けるのが一番!皮が、軟らかく果肉がいっぱい。(中本農園ブログより)

実が熟成していく過程は、梅の実自体が体内の酵素を使って行う「自家発酵」のプロセスと言えます。塩に漬け込む前に十分に自家発酵を進めることで、うまみ成分が多様に広がる気がしています。この成分がいったい何なのか、については、もう少し筆を進めてから触れていくことにしましょう。

梅と梅干しのルーツ

ミネ

梅干しっていつから作られているんだろう。僕は梅干しの効能とかを意識し始めたのは最近のことだったから想像もしなかったけど、最初はどんなことを考えてつくってたんだろう。

梅の歴史、梅干しの歴史、そういえば僕も考えてなかったですね。
ちょっと調べてみましょう。

ということで、調べてみると沢山のサイトが梅や梅干しの歴史を紹介していました。ここでは、家庭での梅肉エキスづくりや梅干し作りなどの梅仕事を推奨している「一般社団法人 梅研究会」のページを参考にしてみたいと思います。

梅は中国原産の花木で、2000年前に書かれた中国最古の薬物学書『神農本草経』には、すでに梅の効用が説かれていました。

そんな梅が日本に伝来したのは、3世紀の終わり頃。そして、時代を経るに従って梅の効用を体験的に知るようになり、梅の塩漬けを保存食、食薬品として用いるようになりました。

梅干しの原型ともいえる梅の塩漬けが「梅干し」として初めて書物に現れるのは平安時代中期です。また、村上天皇(在位946〜)が疫病にかかったとき、梅干しと昆布を入れたお茶を飲んで回復されました。

これが元旦に飲む縁起物として今に受け継がれている「大福茶」の起源とされています。
そして、この年が申年であったことから、以来、申年の梅干しは特別なものとして珍重されるようになりました。鎌倉時代の『世俗立要集』という文献には、「梅干ハ僧家ノ肴」と書かれています。

つまり、梅干しはお坊さんの酒のさかなとして利用されていたわけです。この風潮はやがて、武家の食膳にも広がり、武士の出陣の際には、縁起をかついで必ず梅干しを食べたといいます。

── 参考:「一般社団法人 梅研究会」ホームページ

僕は梅の木が中国大陸からやってきたということも知らなかったですね。なんとなく、あって当たり前のものになっていたのかもしれません。

そして、「効用を体験的に知る」という言葉にピンと来ます。この連載の第八回目に「東アジアの人たちはおなかが弱かった」というようなことを書きました。この話ともつながりますね。「梅干しはおなかにいいぞ!」ということを体験的に知っていった人たちが、その効用と作り方を受け継いでいったんだろうなと思います。

僕の母方の実家は、群馬県の赤城山の中腹にある「神梅(かんばい)」という名前の小さな集落でした。その字のとおり、確かに梅の木はまわりにいくつもあったし、家々の庭で梅の実を干している風景は当たり前のものになっていました。

そして僕も、だいぶ小さい頃から体験的に「梅干しはからだにいい」ことを知っていたと思います。おなかをこわしたら梅干しだし、こわしていない時でも梅干しを食べていると調子がいい、ということを体感していたように思います。

梅干しと出会うこと。あらためて出会い直すこと

のどか

私が小さい頃は、手仕事をする暇があったら勉強しなさいと言われているようなところがあったから、梅干しのよさを認識したのはもっとあとのことだったな。
私はずっとアトピーがあったんだけど、20代後半の頃に叔母の友人に食事療法を教わるようになって、そこから梅干しとか梅醤番茶を実践するようになったんだと思う。

のどかさんは10代後半の頃に「もう薬を飲むのはいやだ」と感じていたそうです。そして、それに取って代わる健康法を後から学んでいったそうです。

僕も小さい頃から毎日喘息の薬を飲み続けることにうんざりしていて、その後に梅干しや梅醤番茶で体質改善をするようになったので、この話にはとても共感します。

ミネ

僕が梅干しの効用を意識するようになったのは、宇井家(のどかさんとあらたさん)からの影響が大きいかな。さらにその後、カムワッカの「養生サロン」が始まって、もっと深く知っていくことができている。

各家庭で梅干しを仕込むことが一般的でなくなった現代、こうやって知り合いづてに学んでいけることは本当にありがたいことですよね。
関心を持つこと、その関心事について知る機会を得ること、その出会いやご縁をつないでいくこと。いわばそれが、民間伝承ということになっていくでしょうね。
やっぱり人との出会い、大事ですね。こういった話をじっくりできる場と時間も、どんどん作っていきたいと思います。

梅しごとと、体への働き

日本で食事療法を実践する人たちの多くがバイブルのように親しんでいる本に『家庭でできる自然療法』(東城百合子 / あなたと健康社)があります。この本の中でも、梅干し、梅干し番茶、梅醤番茶、梅肉エキスなどの効用が詳しく紹介されています。

僕も2003年頃、毎朝梅醤番茶を飲む習慣をつけたことが冷え性を治すカギだったと実感しています。僕の体感としては、梅干し、梅醤、梅肉エキスに共通する効用は「血をよくすること」かなと思っています。血液をサラサラにしながら、鉄分を中心とした必須ミネラルをしっかり取り入れることができる。血が汚れたり、血が疲れてきたときの特効薬という感じがあります。

実際、どんな成分が含まれていて、体に対してどんな働きをするのか。梅や梅干しに含まれる成分や効用について、再び「一般社団法人 梅研究会」のサイトを参考にしつつ紹介してみようと思います。

梅や梅干しに含まれる成分や効用

  • ミネラル、ビタミン・・・梅は、カリウムや鉄、ビタミンEを豊富に含みます。カリウムはナトリウムと共に、細胞の浸透圧の維持調整を行うミネラルです。カリウムには余分なナトリウムを排泄させる作用があり、血圧を下げる代表的な栄養素と言われています。鉄は、その多くが赤血球のヘモグロビンに利用され、酸素の運搬役を担います。ビタミンEは、脂溶性ビタミンのひとつで、高い抗酸化力を持つことが知られています。
  • 有機酸類・・・梅のすっぱい味はこの有機酸によるものです。有機酸は、梅果実中に4~6%、手作りの梅干しに3~4%、梅肉エキスに40~50%ほど含まれています。まだ熟していない青梅にはリンゴ酸が多いですが、熟していくに従ってクエン酸が大部分を占めるようになります。
  • クエン酸・・・クエン酸は、クエン酸回路の構成成分として、エネルギー源として用いられます。そのためクエン酸には、疲労抑制効果があると言われています。また、カルシウムや鉄などのミネラルと結びついて、体内への吸収を助けます。
  • ムメフラール・・・生の梅には存在せず、梅肉エキスなど、製造時に加熱濃縮工程のあるものにだけ存在する成分です。ムメフラールには、血液の流動性を向上する作用があります。

── 参考:「一般社団法人 梅研究会」ホームページ

梅しごと日記:僕の場合

僕は自分自身が幼少時代から冷え性だったこともあって、体を冷やす作用のある食品を手作りする習慣が続かない傾向があります。
ということで、梅の実と砂糖を使った梅しごとはあまりやらないようになっています。ただ、このあたりは「体質」や「好み」によると思いますし、以下は僕の個人的な嗜好による梅しごとの話だと思って読んでください。

まず、梅干しづくりはとても好きです。梅干しをつくるとその過程で他にも色々なものがつくれる、というあたりも好きです。
梅干しをつくることで、同時に梅酢がつくれます。
梅干しを漬ける時に赤しそを使えば、その赤しそを乾かして、ゆかりのふりかけをつくることもできます。
梅干しと醤油と生姜を練ることで、梅醤がつくれます。
梅干しを土鍋で蒸し焼きにすることで、梅干し黒焼きも作れます。
僕が毎年つくっているのは、梅干し、梅酢ですね。
梅醤番茶は日常的に飲んでいます。
梅干しの黒焼きは、2014年頃にまとめて作りました。

梅の写真がどこかにないかな、と思ってネット上を探してみたら、梅仕事の日記が沢山見つかったので、その一部を少し編集して紹介します。

2014年4月30日
今から梅干し黒焼き作ります。
土鍋に梅干しを中心から右回りに並べて、小麦粉を練って土鍋のスキマをふさぎます。
そこからごくごく弱火で約20時間。
20時間火を入れ続けるのはむずいので、2日に分けてつくるつもり。
完成は明後日かな〜♪
2014年5月2日
梅干しを土鍋で蒸し焼きにすること、8時間✕2日。
ふたを開けたら、中は真っ黒。種を外して、すり鉢と乳鉢ですったら、黒焼き完了!
2018年7月20日
夏の土用初日に樽を開ける。
今年は、夏至に炊いた塩と平戸の釜炊き天日塩で、徳島からやって来た完熟梅を漬け込んだ。
土用の間の晴れ間を狙って、三昼と三夜、竹ざるで干す。
その後再び梅酢に浸すかは出来次第。
2020年7月31日
出産予定日が迫る今日、三週間ほど漬け込んでいた梅をようやく取り上げました。樽の中から取り上げた梅を竹ざるの上に並べて、居候先の家の縁側にて干し始めました。
「産前産後の今、果たして梅干しは作れるのか!?」
と思っていましたが、何とかここまで来れてホッとしています。
2019年8月7日
直射日光を最もチャージ出来るのも、夜の露をたっぷり吸えるのも今!
今年の梅は、若狭と家の庭から。若狭は原発ではなく梅や琵琶を始めとする薬の宝庫。
2020年7月31日
今年の土用は雨が多く、気候の変化を感じる日々でした。
おとといようやく「えいや!」と梅の実を樽から取り出し、ザルにあげて干し始めました。
幸いにも息子が時折「梅の実の様子を見せなさい」と要求して、梅の実をひっくり返したりしてくれるので、きめ細かいケアができそうな気がしています。

梅についての学び:岡部賢二さんとの出会い

僕が梅干しに対する関心を高めるきっかけになったのは、今から20年ほど前のことです。
当時住んでいた名古屋には「チェルノブイリ救援中部の会」があり、現地の子供達を日本に受け入れる「転地療法」や支援物資を送る活動をしていました。この団体のイベントを手伝ったりしているうちに、支援物資として梅干しや味噌が送られていることを知りました。

そして2011年3月に福島第一原発事故が起こったことをきっかけに、梅干しを多めに作って現地に送ったり、子どもたちを自然の中に招く「保養キャンプ」を主催して、こういった食材を使った料理を積極的につくるようになりました。
この頃から「誰かに伝えられるようになるためにも、もっと梅のことを知りたい」というアンテナをそれまで以上に高く張るようになったのだと思います。

そんな中、僕を福岡に呼んで原発についてのお話会や手しごとのワークショップを主催してくれていた松本亜樹さんが、マクロビオティック実践家である岡部賢二さんと繋いでくれました。

福岡県のうきはで「ムスビの会」を営む岡部賢二さんの家を訪ねたときの写真。

この時をきっかけに、岡部さんとは全国各地で、食養生や放射能対策に関するイベントやワークショップを一緒にやらせて頂いてきました。

岡部さんは『家族を内部被ばくから守る食事法』という本も書かれていて、その中でも梅干し、梅酢、梅醤番茶などの効用が詳しく書かれています。

岡部賢二

1961年生まれ。日本玄米正食研究所所長、ムスビの会主宰、正食協会理事、フードアンドメディカルコンサルタント。

大学在学中に渡米し、肥満の多さに驚き「アメリカ社会とダイエット食品」をテーマに研究。日本の伝統食が最高のダイエット食と気づいた後、正食と出会い桜沢如一先生の食養健康法を学ぶ。

正食協会講師として活躍後、2003年、福岡県朝倉市に移住し、日本玄米正食研究所を開設。日本の伝統自然食(マクロビオティック)をベースにした陰陽五行と漢方医学の気・血・水の考え方に深層心理学、カタカムナ(潜象物理学)、月の周期律をとり入れた独自の宇宙生理学を提案し、講座やプチ断食指導で全国を回っている。

著書に「マワリテメクル小宇宙〜暮らしに活かす陰陽五行」(ムスビの会出版)、「月のリズムでダイエット」(サンマーク出版)、「ぐずる子さわぐ子は食事で変わる!」(廣済堂出版)、「家族を内部ひばくから守る食事法」(廣済堂出版)、「からだのニオイは食事で消す」(河出書房新社)、「月のリズムで玄米甘酒ダイエット」(PARCO出版)などがある。

岡部さんからは「自分が出した記事はすべて自由に使ってもらっていい」という許可を頂いているので、ここではその一部を少々の編集を入れて紹介してみたいと思います。

保存版にしていただきたい重要な情報と感じているので、なるべく全文を抜粋するようにしています。必要を感じた時に取り出して読んでいただけたら幸いです。

梅干しについて

「梅干を食べていれば医者いらず」と言われるほど、昔ながらの製法で作られた梅干しにはさまざまな効能があります。

その働きは強い抗菌作用だけでなく、クエン酸による食欲増進や疲労回復効果、血液を弱アルカリ性に保ち、血液をサラサラにする効果など、数え上げたらきりがありません。

中本農園の完熟梅干しを使ったねり梅は、旅に欠かせない携帯養生アイテム。

梅酢と梅酢スプレーについて

梅酢は、梅干しを漬けたときに浸み上がってくる塩辛い液体です。塩には防腐・殺菌・抗菌・保存・保温・発酵促進といった働きがありますが、この塩と並ぶ殺菌力を持つのがお酢などに含まれる有機酸です。

梅酢の中にはクエン酸やリンゴ酸、酒石酸などの有機酸が豊富に含まれています。梅酢は、この塩と酸の陰陽両極の成分により抜群の抗菌・殺菌効果を発揮する副作用のない天然の抗生物質といってもよいでしょう。この梅酢を用いるとたいがいの菌は殺菌できるので、感染症の予防になります。

梅酢を10倍に水で薄めたものは、うがい薬の代わりになりますし、8倍くらいに薄めた液体を水筒に入れて持ち歩けば、梅酢のクエン酸が疲労回復薬になるので、スポーツドリンクとしておすすめです。また、下痢が止まらない時や、食中毒の時に用いるのもよいでしょう。

一番のおすすめは梅酢スプレーです。これは、かさ張らず、軽くて持ち運びが便利で、ポケットやバッグに入れておけば、いつでもどこでも簡単に喉に噴霧できる優れものです。
私は外出する時にいつも持ち歩いていて、喉がイガイガする、声がかすれる、風邪気味で喉が痛い、口の中が乾燥するといった時に重宝しています。

また、体が疲れた時や、眠くなった時にも効果抜群です。 乗り物酔いをして気持ちが悪いという時にも、口の中にスプレーすれば気分がすぐに回復します。
また、口臭が気になる人も、口の中に定期的に噴霧しておけば、虫歯菌などの雑菌が駆逐されて腐敗臭が治まります。歯周病の方にもピッタリです。食後、歯を磨くことができない時でも梅酢を噴霧しておけば安心です。

名古屋のBAR URBAN COWBOYでは、2020年3月にいち早く梅酢スプレーを配っていました。このバーをやっている西ダッシュとは、2011年以来ずっと「放射能から子どもを守る活動」を共にしています。

梅醤番茶について

梅醤番茶は、梅干しに醤油を混ぜて練ったペーストに煮出した三年番茶を注いだ飲み物で、マクロビオティックの手当て法の三種の神器の一つになっています。強力な抗菌・殺菌・防腐・抗生作用で、感染症から身を守るだけでなく、体温を上げ、免疫力を高めてくれます。

私は1カ月分を手作りしてビンに保存し、家族みんなで飲んでいます。子どもたちは調子の悪い時にしか飲みませんが、家族全員、そのおかげで元気に過ごしています。 

梅醤番茶に使われている材料は昔ながらの梅干しと伝統製法の醤油、三年番茶、生姜です。

梅干しの塩気とクエン酸や醤油に含まれる約20種類のアミノ酸、三年番茶に含まれる渋み成分のタンニン、生姜の酵素には殺菌、腐敗防止、天然の抗生物質的な作用があります。また、梅干しのクエン酸は疲労物質である乳酸を分解し、疲労回復を促します。

醤油や三年番茶には強心剤的な働きがあり、心臓に活力を与えることで血液の循環がよくなります。そのため、手先・足先といった末梢の血行がよくなって体が温まってきます。

梅干に含まれる鉄分や塩分には増血作用もあるので、冷え症で貧血、低血圧といった虚弱な体質の方にはぴったりの飲み物なのです。

梅醤番茶は胃腸の弱い方にも、おすすめです。胃腸の温度が下がると消化に使われるホルモンや酵素の働きが落ちてしまい、食べても太れない状態や、アレルギーのような消化不良状態を引き起こします。

食後に眠くなる、という人や、食後に甘いものが食べたく人は胃腸が弱っています。雪を溶かす融雪剤にも使われている塩には蓄熱作用があります。そのため梅干しや醤油由来の塩分を含む梅醤を外気温が最も下がる朝方の体温が低くなる時間帯に飲めば胃腸が温まり、消化吸収力が増すのです。

免疫力は体温と関係していて、体温が1℃下がると30%~40%も低下することがわかっています。私は免疫力とは血液の循環力だと捉えています。体温が上がると血液の流れがよくなり、酸素や栄養が全身の細胞に満遍なく行き渡ります。その結果、肉体が心地よくなることで精神も安定し、笑顔になります。

ガンやアレルギーなどの生活習慣病の方には低体温の方が多いので、そうした病気の予防にも梅醤番茶がおすすめです。糖尿病になると出てくるのが口渇という、だ液が出にくくなる症状です。口の中が乾燥すると雑菌が繁殖するので感染症にかかりやすくなります。ところが梅干しは見ただけでだ液が出る食べ物なので、梅醤番茶を飲み続けていくとだ液の分泌が良くなるのです。

元気な赤ちゃんはだ液が豊富なように、生命力の強さはだ液の量で推し量ることができます。活力の「活」という字は舌から出る水、すなわちだ液が多ければ健康になれることを示しています。虫歯や口臭も口の中の雑菌が原因ですから、梅醤番茶が有効です。

梅干し、醤油、番茶という三つのアルカリ成分で血液をサラサラ状態に戻してくれるのが梅醤番茶ですが、これらの成分は陽性(収縮性)なので、一か所に滞りやすいのです。ところが生姜を少し入れると、陽性な成分が生姜の陰性(拡散性)によって満遍なく体の中に行き渡ります。生姜を運び屋として用いるのですね!

生姜がない時には「ショウガない」とあきらめずに唐辛子を少量用いてもよいです。生姜は脂肪分を分解する酵素が豊富なので、肥満予防にもぴったりです!

梅醤の作り方は、湯呑みに梅干しと醤油を入れて割り箸で潰していくやり方が一般的ですが、すり鉢とすりこぎを用いた方が手早くでき、しかも美味しくなります。上下運動よりも回転運動で混ぜ合わせたほうがエネルギーレベルは高まるようです。

梅干(種つき)と醤油を同量用意し、初めに梅干しをすり鉢に入れ、潰しながら摺っていきます。摺っているうちに種が自然に外れてきます。梅干しがペースト状態になったら、醤油を少しずつ入れてさらに摺っていきます。練っていくうちに、段々と光沢が良くなります。

15分くらいあれば1カ月分ができ上がるので、ぜひ挑戦してみてください。醤油も2~3種類違ったものをブレンドするとより美味しく仕上がります。最後に生姜の搾り汁を好みの量で入れれば出来あがりです。

肉食が過去に多かった人は生姜を多めに、穀物菜食の方は少なめで良いでしょう。自分で作るのが難しい場合には、自然食品店で梅醤エキスが売られているのでご活用ください。

三年番茶は30分くらい煮出した方が美味しいです。

息子のお気に入りの手しごとの一つは、梅醤づくり。二人で旅に出かけるときは、必ず持ち歩くようにしています。旅先で作ったりもします。

梅干し黒焼きについて

梅干しの黒焼きの作り方は、素焼きのツボに梅干しを敷き詰め、こねた小麦粉を蓋と鍋本体の間に塗って密着状態となったところで、2時間くらいとろ火で焙煎していきます。空気が入ると酸化してしまうので、密封状態で蒸し焼きにしていくのが作り方のポイントです。

無酸素状態で蒸し焼きにすることで還元作用が備わるのです。焙煎が終わったらすり鉢で微粉末になるまで摺って、細かなパウダー状にします。種は硬いまま残るので、これは取り除きます。湿気がこないように蓋つきのビンに入れれば出来上がりです。

梅干しの黒焼きは天然の副作用のない抗生物質のような働きをします。梅干しでも梅酢でも梅肉エキスでも効かないようなしつこい感染症には、この黒焼きが役立ちます。

海外でコレラ菌に感染し、梅醤番茶や梅酢ドリンクなどの手当てをしても下痢が止まらない、という方で、最後に梅干しの黒焼きを試したら良くなったという方がいました。

黒焼きの面白いのは、悪玉菌は抑えるが、善玉菌は活性化するという選択機能が付いている点です。これを用いれば、しつこいインフルエンザの菌や結核菌、病原性大腸菌などの感染症の対策にもなります。

また、歯の治療の後はこの黒焼きをなめておけば、悪玉菌の増殖を抑えることができます。

手術をした後や切り傷の時にも化膿菌の感染予防のためにも摂っておくとよいでしょう。

カルシウムやマグネシウム、鉄といったアルカリのミネラルの宝庫である梅干しの黒焼きには蛇毒やハチ毒の中和作用もあります。
噛まれた患部に直接塗ってもよいのですが、里芋湿布に黒焼きを少量まぜて患部に貼る方がより効果的です。以前、スズメバチに刺されて病院で治療したものの、痛みと腫れがおさまらないという方がいたので、黒焼きを少量服用してもらい、患部には黒焼き入りの里芋湿布を貼ってあげたら、一晩でよくなりました。

夏場は、行楽先でそうした怪我が増える時期なので、外出するときには持ち歩くようにするとよいでしょう。

陽性の梅干しに火と時間の陽性が加わった極陽性の梅干しの黒焼きには、陰性化した赤血球を陽性な本来の状態に戻す働きもあります。陽性が強い赤血球ほど、陰性な酸素を引きつける力が強くなります。

火事の時に煙を吸い、赤血球に一酸化酸素が取りついて中毒症状を起こした時には梅干しの黒焼きを用いれば、赤血球から一酸化酸素が引き離され、酸素を運べる健全な状態に戻すことができると言われています。

高山病や潜水病など、赤血球が弱った状態の時にぜひ活用してみてください。

また、梅干しの黒焼きには炭と同じようなマイナスイオンを放出する作用も期待できます。本来、赤血球の表面はマイナスに帯電していますが、電磁波や放射線、化学物質などの影響でプラスイオンが増えると一部の赤血球がプラスに帯電します。

マイナスに帯電している時にはサラサラ流れていた赤血球でも、赤血球の中にプラスに帯電したものが増えるとプラスマイナスでくっつき合いが起こり、団子状に固まってしまいます。これをルロー状態といいます。こんな時には耳かき2~3杯の梅干しの黒焼きを葛湯に溶かして服用すれば、血液をサラサラの健康状態に戻すことができます。

電磁波や放射線の被爆と思われる症状がある時に試してみるのも一案です。

古くからの民間薬として用いられてきた梅干しの黒焼きは、科学的には未解明の部分も多いのですが、いざという時の常備薬として備えておくと大変便利です。ぜひ、日々の生活の中で活用してください。

北カリフォルニアでMUME FARMという梅農園を営むきよちゃんが、2020年の春に日本に居る僕達の元に送ってくれた梅干しの黒焼き。今も重宝しています。

岡部賢二さんの言葉の最後にある「古くからの民間薬として用いられてきた梅干しの黒焼きは、科学的には未解明の部分も多い」という部分がとても印象に残りました。科学的に実証されていなくても、体感として「効いている」と思ったら続けてみるということは大事なスタンスだと思います。

連載第六回で紹介した秋月さんも腸内細菌の働きについて『体質と食べもの』の中でこう書いています。

私達の腸内には細菌が多い。
これも自然界である。
生命現象消化作用に、有益な細菌の種類も多いはずである。
ことに小腸ではなく、大腸内の消化吸収は、人間の消化液にもよるが、むしろ細菌属の分解醗酵にその影響をこうむっている。
しかも、これらの細菌はまだ充分科学されていない。
── 秋月辰一郎

効くからこそ、広く使われている

昭和7年に出版された『黒焼療法五百種』(主婦乃友社)という本があります。この本は、雑誌『主婦乃友』誌上で応募をかけて、数多く集まった黒焼き療法についての投稿から約五百種を選んで編纂されたものです。

りんご、大根、梅干し、ひょうたん、かまきり、ふぐ、かぶと蟹、鰯、雀、もぐら、すっぽん、玉子、みみず、茄子、いたどり、いなご、すもも、のびる、かたつむり、まむし、どぜう、にんにく、蛇のぬけがら、赤とんぼ、ゆずの種子、くちなし、よもぎ、髪の毛、昆布、茄子の蔕、小豆、おけら、川をそ、ねずみもち。

約五百種の黒焼きが並び、脚気や心臓病、 腎臓病や糖尿病、リウマチや寝小便、 肺結核、咳、喘息、下痢、神経痛、乳の病、やけどといった様々な症状ごとに有効な黒焼きの作り方、摂り方がまとめられています。

以下の文章は、この本の前書きに当たる部分に書かれたものです。

黒焼療法は、古くからわが國の漢方医、並びに廣く民間に行われた療法であります。

しかし、その効能は、一度実験した方は解っていても、科学的の説明が困難なばかりに、甚だしく軽蔑の眼をもつて見られてきました。
『何だ、 まじないのようなもので、病氣が治ってたまるものか』と、一ぺんに片づけられてしまふのが常でありました。しかし、それにも拘らず、根強く民間に流布して、立派な専門業者が、到るところに門戸をかまえています。 

この事実は何を語るものでありませうか。結局「効く故に、廣く用ひられる」に他ならないのであります。」
(中略)
「黒焼が効くといふことは、それが効いた事実だけで沢山で、その成分が判らないといふ理由だけで、これを一笑に附することは、慎まねばなりますまい。」

今回の記事も文章量が多くなってしまいましたが、効用や作り方など、大切な情報をなるべく省かないようにと努めました。

梅干しや梅干し黒焼きのように、どこかに保存したりブックマークしておいてもらって「摂取したい」と感じたときに取り出して、服用するように読んでいただけたら嬉しいです。

今回の参考書籍

『家庭でできる自然療法』

著者:東城百合子 出版:あなたと健康社

『家庭の味 手作り食品 ー健康は安全な食べものからー』

著者:東城百合子 出版:あなたと健康社

『市民の科学』

著者:高木仁三郎 出版:講談社学術文庫

『復刻改定版 黒焼療法五百種』

出版:NPOメダカのがっこう

冨田貴史(とみたたかふみ) プロフィール

1976年千葉生まれ。大阪中津にて味噌作りや草木染めを中心とした手仕事の作業所(冨貴工房)を営む。
ソニーミュージック~専門学校講師を経て、全国各地で和暦、食養生、手仕事などをテーマにしたワークショップを開催。著書『春夏秋冬 土用で暮らす』(2016年/主婦と生活社・共著)『いのちとみそ』(2018年 / 冨貴書房)『ウランとみそ汁』(2019年/同)、「未来につなげるしおの道」(2023年/同)など。

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