
生命に「きく」
「生きる」とは何か。「わたしである」とはどういうことか。
目まぐるしく変化し続ける世界のなかで、わたしたちは今、自分の内と外との関係をもう一度問い直す必要に迫られているのかもしれません。
この連載は、「BE WITH=ともにいる」という在り方を軸に、人の育ち、自己肯定感、自然との関係、そして生き方そのものについて語る、松木正さんの言葉を辿るものです。
松木さんは、人の育ちの現場に長年立ち続け、また先住民の知恵やセレモニーの実践を通して、個人と共同体、そして大地との関係に深く向き合ってこられました。その語りは、どこまでもやさしく、しかし本質を突いてきます。
第1回 人生は「切れる」ことから始まる
第2回 あるがままを話すことは「主体性」の始まり
第3回 誰かとぶつかることで自分の存在を知る
第4回 壊れることを信頼する
第5回 寝袋をもって生きる ─ 地球とともに眠る
5回にわたって展開される松木さんの言葉に、じっと耳を澄ませながら、わたしたちもまた「生きるとは何か」を静かに、深く問いなおしてみたいと思います。
第5回 寝袋をもって生きる ─ 地球とともに眠る
サバイバル・プライオリティ「シェルター・水・火・食料」
もしサバイバルの状況に陥ったときに、まず一番最初に手に入れないといけないもの、重要な価値のあるものは、実はシェルター。これが一番。二番は水。三番が火。四番目が食料。この順番でたぶん手に入れたらいいし、大切やと思う、生き残るためには。
シェルターがあるだけで、体温が温存されるし、まずパニックにならへん。だから、キャンプのときでも、自分らが最初にすることは、おおきなタープを張ること。
大きなシェルターをつくることで、みんながその下にはいることができる。雨がふっても大丈夫やし、風も止めてくれるような、おおきなタープ、シェルターをつくる。それがあるだけで、ものごとを落ち着いて考えることができる。いろんな作業、ぬれずにできるやんか。体温が温存された状況で。
一番死ななくて、一番冷静でいれるよね。それやっぱりシェルターが一番大事やと思うのよね。

2番目の水はおそらく、日本にいるときやったら、割と簡単に手に入ると思うんや。すぐ給水車も来るしさ。場合によっては、ポリタンクや、浄水器が必要かもしれんけど、日本はそんなに乾いている土地じゃないから、水を手に入れる方法は、そんなにむずかしくないと思う。
でも脱水には気をつけなくてはいけない。それと、自分が住んでいる場所の一番近くの水源は知っておく必要はある。どこに湧水があるのかをね。
シェルター、水、の後の三番目の火、これを扱えるかどうか、これは人類である所以のことやろ。火をちゃんと扱えることと、シェルターをいかに扱えるようになるか、で相当暮らしが変わると思うよね。
火は生きもの、対話がいる
火って、ものすごくコミュニケーションが必要だよね。常にシグナルを出してくるし、その気持ちを理解して、ちょっと動かすだけで、ちょっと手を加えるだけで、ちょっと風をとめるだけで、ぼーっと燃える時もあるし、風を止めたいたものを動かすだけで、ぶわーーと息吹き返すこともある。
何か大切なシグナルを見落としていると、大切にし忘れていると、もう、スーッと、鎮火してしまうし、まるで生き物みたいなところあるよね。そういう意味で言うと、火と対話できるというのは、絶対必要なこと。

食べることより大事なこと
食べ物は、食べなくても結構生きていられるし、ましてや水を飲めたら、実は、あんまり問題でない。自分は「サンダンス」してるけど、四日間、食べずに踊り続けるということは、そんなに困難なことじゃない。飲まないことはつらいけどね・・・。だから、食べないことはそんなに心配ではなくて、サバイバルの状況において、食べ物より先に優先することが実はある。
寝袋を持つということの意味
トム・ブラウンが言ってたんやけど「世界中の全員の人が、自分の寝袋を持っているような時代になったら、その時がきたら、地球との関わり方やったりとか、生き方が変わる」って。
たぶんそのことで、環境へのインパクトが変わってくる。暮らしの中に、もっと地球と共に生きるマインドが入ってくる。「寝袋を持つ」ということは一つの象徴やと思う。「地球の近いところで生きる」という意味のね・・・。寝袋は、ちっちゃなシェルターやからね。もうそれだけで完結してるシェルター。繭みたいな。
いい寝袋が、必ずしも高価かどうかはわからへん。でもやっぱり、いい寝袋はそこそこ値段もするんじゃないかな。もしこれから子どもに買ってあげようと思うのなら、いい寝袋を買ってあげた方がいい。もし、大きすぎるなら足元をひもでしばったらいい。別に子どもだけじゃないな、おとなも、いい寝袋を持った方がいいなぁ・・・。

一つの基準としては、一般的に言う、スリーシーズン以上のもの。外気温がマイナス10度くらいでも耐えられるものがいいな。できたら、コンパクトなものが使いやすいから、ダウンがいいと思うね。一生ものとして使える。
ダウンの寝袋は、そんな簡単に濡れてしまわないけど、一度グシュグシュに濡れてしまうと(あまざらしの中で何日も野宿するようなことがあると)ショボーンぬれた鳥みたいになる。もしそうなったらいよいよあかん。なかなか、復活せーへんからから、ものすごく困る。でも、そんなにドボドボになることはめったにないから、ダウンはものすごく有効やと思うね。
一番いいのは、シュラフカバーをつければ、ぬれないで済む。シュラフカバーはすごくコンパクトだからね。もしダウンに懸念があるんやったら、化繊でもいいと思う。化繊はぬれてもすぐ乾くし、ぬれててもまああったかい。
いいダウンの寝袋に、シュラフカバー(寝袋カバー)をつけるだけで、保温が10度分くらい、上がる。マイナス10度まで耐えられるやつが、マイナス20度まで耐えられるし、あまざらしになっても大丈夫やし、そんな寝袋もったらアウトドアで何かしたくなるよね。それ持って出かけたくなったり、野宿したくなったりね。
※トム・ブラウン
7歳の時にアパッチ族の古老ストーキング・ウルフと出会い、10年間サバイバルやトラッキングやアウェアネスの技術を学ぶ。さらに10年間アメリカ国内を放浪し、原野の中で生き延びる技術を磨く。27歳の時に、行方不明者のトラッキングを依頼され、見事に探し出したことから名前が知られるようになる。書籍に「グランドファーザーが教えてくれたこと」、「トラッカー」などがある。
地球との距離を近づける暮らし
そうやって開かれた、地球や宇宙にバーンと開かれたところで、寝る経験をもつだけで、今まで漠然と持っていた恐怖感、不安感、というものはなくなる気がする。
人間が何でもコントロールできると思っている世界を出ると、そこにはもっと大きな力がいるしさ、傲慢じゃなくなるんじゃない? 一つの象徴的な運動として、みんなが寝袋もったらいいと思う。寝袋一つで、世界に身をゆだねる感覚が開き、生き方が変わるよね。

世界と「ともにいる」ことのはじまりに
松木さんの語りを通して浮かび上がってきたのは、「育ち」や「自立」といった言葉の根底にある、もっと素朴で根源的な“人間らしさ”でした。
それは、誰かとつながりたいという欲求、誰かに見てほしいという思い、そして、自分という存在がここに「いていい」と思える感覚。
そのすべてが、環境や他者との関係性のなかで育まれていく。自分という木が、大地に根をおろし、枝葉を広げ、やがて大きな森とつながっていくように。
「BE WITH」とは、技術ではなく、態度であり、生き方です。そしてそれは、親であること、教育にたずさわることに限らず、誰もが日々の暮らしの中で育んでいける関係のかたちです。
生きづらさが言葉になるいまだからこそ、何かを変える前に、「ただ、そばにいること」を大切にしてみる。
目の前の人と世界に、静かに耳を澄ませてみる。それが、これからの世界をつくる、新しい一歩なのかもしれません。
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先住民の知恵と生き方から学ぶ環境教育、自分と自分をとりまく様々な生命との関係教育を軸に「マザーアース・エデュケーション」を主宰。
京都府伏見生まれ。大学在学中、自身がうつ病を克服していく過程でカウンセラーと出会い、教育の現場にカウンセリングの手法を用いることの可能性を探り始める。
YMCA職員などを経て環境教育を学ぶために渡米。全米各地で環境教育のインストラクターをする中でアメリカ先住民の自然観・宇宙観・生き方、またそれらをささえる儀式や神話に強く引かれ、サウスダコタ州シャイアン居留区に移り住みスー・インディアン(ラコタ族)の子どもたちの教育とコミュニティ活動をしながら伝統を学ぶ。
現在、神戸を拠点に全国各地にて、キャンプの企画や指導、企業研修、学校での人間関係トレーニング、また保護者に向けてのワークショップ、子育て講座、アメリカ先住民の知恵を前面に打ち出したキャンプの企画と指導、神話の語り、教育的意図をもった企画講座、個人カウンセリングなど、幅広く活動している。
著書に、ロングセラーとなった『自分を信じて生きる』(小学館)、 『あるがままの自分をいきていく インディアンの教え』(大和書房)がある。















