数々のコンテストで世界一、日本一を受賞するチーズを作っている共働学舎新得農場(*)。冬にはマイナス30度にもなるという環境で、身体が不自由だったり、精神的に安心できなかったりで学校や会社に行かなかった人、行きたくない人、牛が飼いたくてやってきた人など、さまざまな人が共に生活し、野菜や米、蕎麦を育て、牛・豚・鶏など様々な動物たちと暮らして、チーズを作っています。

その暮らしの中で、世界トップレベルのチーズを生産している新得農場は「自然と一体となることで、高い質を作り出す」ことを示しています。生命あるものが必要とする最も基本的なことを尊重しながら、いにしえの伝承を科学の視点であらためて探究し、「自然の摂理のままの酪農」に取り組んでいる新得農場代表の宮嶋望さんに、この度お話を伺っていきます。

(*)真の平和社会の実現を目指して、自由学園の教師であった宮嶋眞一郎さんが1974年に設立した共働学舎は、現在、信州2箇所、北海道2箇所、および、東京1箇所で活動されています。新得農場は、その拠点の一つです。

自分たちで労働をして自分たちで生活する「自労自活」

共働学舎は、障害を持っていてもできることをやって、自立していきましょうって「自労自活」を掲げているんですね。 障害があるとしても、障害の種類が違う方がお互い助け合えるじゃないですか。それで社会に負担をかけないで生活できるようになる。

だけど、そうすると実は補助金は出ないんですね。障害者施設に補助金を出す認定をするには、同じ障害を持つ人を30名以上集めてそれを管理する体制を整える必要があるんですよ。

実際、共働学舎ではいろんな障害をもつ人たちが共同で生活しているけれど、福祉関係の補助金をもらわないでやっているんです。だから自分たちで稼ぎ出さないと、自分たちの暮らしの質がどんどん低下してしまう。

それで、どうやったらこの日本の社会で、障害を持ってる人たちが3本1とか4分の1位ながら、彼らの力が生きる、彼らは生きようとする意識が強いからね、それを生かして生活できるか、自活できるか、と考えてやってきてるわけです。

自活する、そう、食物や自分たちで欲しいものは全部自分で作る。 買わなくていいから、お金を使わず自活できるよね。

初めての自家製チーズ

この新得で牧場を始めた時のことです。まだ牛舎が建つ前だったので、最初の3頭くらいまでは手絞りだったんですよ。その時、ちょうど牛乳あまり時代の第1回目で、牛乳を赤い瓶に入れて捨てている様子がテレビで流れてたんです。「牛乳は余ってる。けしからん」そんな雰囲気の時代。だけど、苦労して手絞りした牛乳を捨てるわけにいかないじゃないですか。

飲もうと思っても、その時のメンバーは6人だったんですね。流石に何十キロも飲むわけにいかないから、限界がある。そうすると、チーズを作るほかないよね。

その時に、お世話になっていた病院の事務局長をされていた方が、ステンレスの容器と少しのレンネットを分けてくれたんです。僕はアメリカ時代に出会った友人がチーズを作っているのをみていたから、「あいつにできて、俺にできないわけがない」というハッピーな性格も手伝って、「これでチーズができるぞ」とやってみたんですね。

それがビギナーズラックで、最初の一発目、チーズが固まったんですよ。それで「なんだ、チーズ作り簡単だ」と始まった。実際、全然簡単じゃなかったんだけどね、続けることになったんです。

風呂の熱を無駄にしないように風呂の上でバターを作ったりだとか、いろんなことを聞きかじっては作って、食べるわけです。それが、美味しいんだよ。殺菌してないから。殺菌するのにも熱量使うからね、雪の中から薪取ってこなくちゃ行けないから、そんなことやってられないよね。

だから、風呂に入れば、だんだん冷めていくんだけど、三十何度の熱があって、そこにおいて作る。 そんなふうに3年間作ってたんだよね。そうやって無殺菌で作ったチーズやバターを、うまいかどうかは別問題にして、食べてたんですよ。 それが一番最初の自家製チーズの自己消費だったんです。

自立への道

2年目だったか3年目だったか、脳障害の持っているメンバーが、トラクター作業中に、脳出血してしまって、緊急入院したことがあってね。1ヶ月くらい意識がなかった。ところが意識が戻ったんだよ。その間、付き添いに、共働学舎から二人、毎晩出てくれていたから、「よくずっと付き添ってくれた。何か欲しいものあるか?」と聞いたら、そのうちの一人が食い道楽で、「一番おいしいレストランへ連れていってほしい」というわけ。それで、帯広の一番おいしいヨーロッパ系レストランに連れていったんです。

自分たちは、チーズ作ってて、いいチーズかどうかわからずに食べてるわけでしょ。だからさ、チーズの詰め合わせって、そのレストランのメニューにあるから、それを注文したんですよ。 そうしたらマスターが出てきて、「君たちチーズをわかっているのか?」と聞いてくる。3人揃ってきたない格好してるからね。

それで「チーズを作ってるから、本物のチーズを食べてみたいんだよね。」と応えると、「今度、お前たちが作ったチーズ持ってこい」と言ってくる。「いや、うちは製造許可取ってないから」と言うと、いらないんだって言うんです。

地域のプロと共に生きる

レストランは、シェフが選んで納得したものを出すわけじゃないですか。衛生責任者はシェフなんです。 製造者が衛生管理の資格持ってなくても、シェフが持っていればいいんだって。「ほぉう、そうなんですね」と、勉強になったね。それから「持ってこい」と言って、持っていくと、シェフだからチーズは作ってないけど、チーズを見る目はプロだから、うるさいんだよ。ここをこうしろ、ああしろ、とかね、ここは苦いとか。それで、なんで苦いんだ、って考えるわけです。

こうやって、地域社会のそれぞれのプロに育てられてるんだよね。面白いというか、なんというか。

生命の働きに即したチーズ作り、多様な生命のひびきあうフィールド作り、その背景にある宮嶋望さんが実践されているメタ・サイエンス。カムワッカが取り組む生命と同期する場づくりのモデルとして学びながら、引き続き、宮嶋さんのお話をお届けしてまいります。

宮嶋 望 プロフィール

農事組合法人「共働学舎新得農場」代表
NPO「共働学舎」副理事長

1951年、前橋生まれ、東京育ち。自由学園最高学部卒業。1974年、米国ウィスコンシン州にて酪農実習(2年間)。1978年、米国ウイスコンシン大学卒業(畜産学部酪農学科、B.S.)。

1978年、新得共働学舎設立。1998年、オールジャパンチーズコンテスト最高賞(ラクレット)。2004年、第3回山のチーズオリンピック金賞・グランプリ(さくら)。2012年、農林水産大臣賞「マイスター」受賞。

十勝ナチュラルチーズ振興会会長(1994~2005年)。十勝ナチュラルチーズ協議会副会長。チーズ・プロフェッショナル協会副理事長。ジャパン・ブラウンスイス・クラブ会長。北海道ブラウンスイス協議会会長。新月の木国際協会副理事長。

共働学舎 新得農場

北海道上川郡新得町字新得9-1
TEL:0156-69-5600(日曜を除く10:00~17:00)

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