Taguchiスピーカー 中島 学さん、田口 明容さん インタビュー

写真:(左)田口音響研究所 田口明容さん (中)タグチクラフテック 中島学氏さん (右)カムワッカ 宇井

●田口さんとの出会い

宇井:中島さんと田口さんの出会いみたいなところをお聞かせ頂いてもよいですか?

中島:田口との出会いはですね、、、実は田口家とは家が近かったんです。

明容:僕と中島は幼馴染です。同じ幼稚園、同じ小学校。

宇井:えー!そうなんですね!

中島:しかも、私の母と明容のお母さん、田口の奥さんですね。保母さん同士だった。

明容:で、そこも幼馴染で。

宇井:えー!二世代で幼馴染!

中島:そう。なので、田口家のことは良く知っていました。でも、田口社長のことは知りませんでした。会ったこともなかったんです。

明容:ほぼ家にいない人だった(笑)

宇井:笑い事じゃないけど、笑ってしまう。必殺仕事人ですね。

写真:故・田口和典氏 2018年当時

中島:で、出会いですが、1995年に阪神大震災があったんですよ。あの時に私もちょっと時間があったんで、神戸でちょっとボランティア活動をしてたんですね。その時に田口も向こうに「あたたかシャワー」っていう移動型の仮設シャワーを作って、寄付してたんですよ。
で、田口家とはお付き合いがあったんで。で、知り合いの息子の私がですね、被災地でボランティアをしているっていうのを聞いて、せっかくだからそこにも寄付してあげようみたいな 縁で、田口がそこにシャワーを持ってきてくれたんです。そこが出会いだったんですよ。

宇井:えー!

中島:で、その頃、私も就活をしていて、、、というか、もう内定もらっていて、音響とは全然関係ない会社だったんですが就職しようと思っていて、、、そんな時に田口と出会ってしまったんです

宇井:出会ってしまった(笑)

中島:そうなんです。で、その強烈のキャラクターにやられてしまいまして。「社員募集してますか?」って訊いちゃったのが出会いです。

明容:だから、周りのスタッフからすると「絶対、縁故入社だろう」ずっと言われてたらしいです。

中島:でも、それまでは田口に会ったこともないですし、音響関係の仕事をしてることすらも知りませんでしたし。それが出会いでしたね。

宇井:会ってみてどうでした? なんか、やっぱり親子だな。なのか。

中島:いやいや、もちろん。もちろん似てますけど。田口はちょっとね。人間じゃない。
シャワーがどうのこうのってわけではなく、 田口のキャラクターには強烈なインパクトがあって。で、音楽も好きだったんで「社員、募集してますか」っていう・・・

宇井:内定も断って

中島:断りました。そして、未だに覚えてます。最初の面接がデニーズだったんですけど、うん、そこになんかファックスの裏紙を持ってきて、そこに給料いくらとか手書きで(笑)

宇井:音響の世界はそこからってことなんですね。社会人1年目から。

中島:そうです。

宇井:じゃあ、ずっとここに?

中島:ずっとここにいますね。30年ぐらい。

宇井:すごいですね。田口家とのお付き合いが。保育園から今に至る。 そして今、一緒に働かれてるって。

中島:はい。面白いですよね。

宇井:まさかそんなことがあったとは思いませんでした。びっくりです。
その当時のその田口さんの人間離れした(笑)キャラクターに惹かれた部分って、、、表しにくいかもしれないですけど人間的な魅力というか、どういった部分に惹かれたんですか?

中島:本当にこれは一言じゃ言えないぐらい、たくさんありすぎますけど、なんなんでしょうね。まず、ものすごく優しいですよね。人間性ありき。そこには確固たるものがありますね。
あとはやっぱりアイデアだったり、バイタリティだったりとか、 こっちが想像もしない切り口で物事を捉える。常に、何か新しいものを考えてますよね。だから、いつもスケッチブックを持ち歩いて、電車の中とか至るところで新しいスピーカーを手書きマンガで書いていましたよね。純粋ですよね。子供みたいですよね。

宇井:本当ですね。年齢に関係なく、もうそのまま大人になれるんだって思いました。

田口さんのスタンス

宇井:田口さんのスピーカーづくりのスタンスなんかのエピソードはありますか?

中島:田口はよくヴィンテージスピーカーのことを骨董品と言って興味を示さなかったのですが、その製品の良さはリスペクトしつつも、そこにこだわり過ぎるのでなく、“常に新しいものを生み出していきたい”、“過去のものにとらわれず、常に新しいものを考えていこう”と。「音の解放」という表現もよくしていましたね。

宇井:そうですよね。 音って、自然の音だったり、この純粋な僕らの発してる音とスピーカーの音って、 限りなく近づいてはいるもののイコールではないわけですよね。それにどれだけ近づけていけるかっていうのは、常に新しく、音の解放というか、音の進化というか、そういう可能性を追求していくってことですもんね。

中島:よく昔からオーディオのキャッチコピーに原音再生っていう 言葉があるじゃないですか。スピーカー開発者は、なるべく自然の音に近づけたいっていう思いがあって、ああいうコピーになってしまってるのかなと思いますが。田口の場合も、もしかしたら原音再生なのかもしれないですけど、そこにその音の気配、佇まいというものをどうアレンジしてリアリティを求めていくかっていうところを 考えていたのかなって気はしますよね。

宇井:だから逆に言えば再構築というか、そのままっていうのは、逆にありえないですもんね。実際ありえない話なんだけど、それ以上の音を出すぐらいの。

中島:そうです。それ以上のプラスアルファの音を出したいっていう、 原音以上のリアリティーさ、というかですね。そういうのがあったのかもしれないですよね。

今後について ー 音による心地よい空間づくりの提案

宇井:今、取り組んでいることだったりとか、今後こういうことをやっていきたいんだみたいなことについてはいかがですか?

中島:やっぱり今も前も変わらないんですけど、 音もインテリアっといいますか、音による居心地のいい空間の大切さを提案していきたいですね、今の商業空間のスピーカーって、BGMかけたいから何かスピーカー付けておいてっていうのが多かったと思うのですが。 いや、そうじゃないでしょ。音もインテリアでしょ。もちろんスピーカーのデザインもあるのかもしれませんけど、音による居心地のいい空間づくり。そこを今後も提案していきたいですよね。

宇井:ちょうど去年から明容さんにも相談しながら、宮本さん(※)の力で色んなマルチチャンネルの空間作りをして、どういう風にこのスピーカーを届けていくか、みたいなところがあり。田口さんが生前ずっとおっしゃってたサウンドミュージアムを実現したいって思いが僕もずっとあってですね、それをどう形にしていくかっていうところです。なので、ちょっとその辺も 色々またお力添えいただきながら実現できたらいいなと。

中島:今、宮本さんとやられてんのはどういう形になるんですか。

宇井:元々が僕の中で、サウンドミュージアム構想と、 自然環境の音環境を再現するっていうビジョンが繋がって、それをマルチチャンネルで実現できないかっていうのが発想のきっかけだったんですよ。それプラス、 音の体験をマルチチャンネルで実現していくことを、自然環境だけじゃなくて、いろんな人工環境だったりとか。ライブ会場だったりとかいろんな音体験があるじゃないですか。そんな音体験を 再現する、体験する、再構築する場所を作っていきたいなって思って。そんなプロジェクトで動いてるんですよね。その1つのプロトタイプモデルみたいなのを体験できるように、今、進めているんですね。そういった場所でTaguchiスピーカーを体験してもらって、鳥肌立つ体験をいっぱいしてもらい、ファンというか、仲間。仲間というか。うん、田口さんのスピーカーが大好きな人たちが増えてったらいいなっていう思いがあります。
単純にスピーカーっていうもの自体を売ってくだけでなくて、ええ、こう、体験自体を作っていくというか、体験的なプログラム的なものに仕上げられてたらいいなと思ってるんですけど、、、

<宮本 宰さんがつくる「シンフォキャンバス・音の森」>

中島:やっぱり視覚って強いじゃないですか。でも、心に残りにくいと思うのですよね。
でも音って残るんですよね。で、SF映画とかでも、映像だけ見ても、すごい映像だなってことは感じますけど、その音を切ると、 なんかすごいしょぼくなっちゃうというか、それだけ音が担う役割って大きいのかなって気はしますよね。

宇井:そう思いますか。本当にさっき、肌感覚っていうか、この全身体験 。 一方で子供たちはイヤホンで済ませているし、家にスピーカーが無いみたいな、お家も家にやかんがないのと同じように、ちゃんとしたスピーカーが無くて、ちっちゃい bluetoothスピーカーで済ましちゃってるところも多い中で、逆行はしていくと思うんですけど。他にも仕事で教育関係の野外体験プログラムをして、本当に身体感覚を育んでいくことがすごい大事だと思っているので、この没入体験を 体験してもらえる場を増やしていくことを多分すごく大事にしながら、この市場の中でどうね、落としていくかはこれからの課題なんですけど、やっぱり何かしら取り組んでいきたいっていう思いです。

中島:森林体験っていいですね。

宇井:それも結局、すごく圧倒的な体験と違うじゃないですか。うんと微細な体験じゃないですか。だから、 両方兼ね備えないといけないなと思っていて。心が動くっていう意味で。だから、すごく圧倒的な体験で心が動くっていうのと、 すごく微細な静寂な空間で音の体験で心が動くっていうのと、両方提供できるといいんじゃないかなと。

中島:なるほど。うん。

宇井:微細さって、なかなか感じるの難しいじゃないですか。だから、まず感覚を開くためには圧倒的な体験が必要かなと思って。そんな仕掛けができたらいいな、なんてちょっと思ったりしてるんです。

中島:ちょっと話がそれちゃいますけど、また田口がよく言ってたのが、 うちは「極上の弱音」と「極上の爆音」をやるんだ。

宇井:まさにそれですね。

中島:弱音っていうのはわかるけど、極上の爆音っていう、なんかその対比が面白いなと。

宇井:極上の爆音ながら、その静寂さっていうか、その中でも、 なんていうんですか、それこそほんとに普通にこういう風にいられるみたいな体験って貴重です。それを経ての極上の弱音

中島:極上の爆音というのは、結構音圧とかにも比例する部分がある反面、極上の弱音というのは、静寂の中で音に包み込まれるというか、そういう体験でもありますもんね。

宇井:今つくろうとしているのは、そのモデルケースになるようにと。そこから”俺んとこもそういうの作りたい”っていう人に出会えるようになり、それが各地にできていったら、 いずれそれがサウンドミュージアムという極上の空間に繋がってくんじゃないかっていう、僕の仮説なんです。

中島:いい仮説です。 いやー、面白い人たくさんいますからね。

宇井:そうなんですよ。絶対に作りたい人は僕以外にもいるはずだと思って。

中島:で、またそれを体験した人がまた想像を膨らませて、プラスアルファの何かが生まれる。

宇井:Taguchiのスピーカーを通して、そんな繋がりが広がっていくことを夢見ています。

※宮本さん・・・宮本 宰(みやもと つかさ)。音響空間クリエーター。
昭和49年3月ヒビノ電気音響(株)[現:ヒビノ(株)] に入社。日本国内では確立していなかったPAの立役者。大型施設での音響設備の設計・施工・コンサル、 海外アーティストの音響コーディネーター確立。64のスピーカーから64の音を出す究極の音場「シンフォキャンバス・音の森」を田口さんと作る。

インタビュー記事

オープニングページ

前編:日本人の耳に心地良いスピーカーとは

中編:空間を音が繋ぎ、 音と景色、音とその時間を深める

●後編:田口和典という特別な存在。そして今後の音空間づくり。(当ページ)

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